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運動すれば健康になるって本当?そこに隠された意外な落とし穴とは?
あるアンケートが実施されました。
「運動」と「健康」に関するアンケートです。
あなたは健康ですか?
あなたは普段から運動していますか?
といった単純な質問です。
アンケートを集計した結果、「運動」と「健康」の間には明らかな相関がありました。
普段から運動している人は、そうでない人より健康な人が多く、
普段あまり運動していない人は、運動している人より不健康な人が多かったのです。
この結果をみた調査員は「運動は健康に良い!」と、結論付けて「皆さん、健康のために運動しましょう!」と呼びかけたのです。
この呼びかけに異論を唱える人はいませんでした。
ただ一人を除いて……
photo by Joaquin Villaverde Photography
アンケートは公平に行われました。
もちろん、性別、年齢、職業、学歴に偏りが生じない様に調査されています。
調査数も統計学上、問題のない件数を集計しており、不正は行われていません。
データは完全に真実を示しています。
それでも、異論があると言います。
さて、その異論とは一体何でしょうか?
データ収集からデータ読取の時代へ
今は「情報が溢れかえっている時代」と、よく言われます。
photo by Vive La Palestina
インターネットやSNS(フェイスブックやツイッター等)の普及で、誰もが簡単に情報発信できるようになったからです。
それがまるで問題であるかのような記事を時々見かけますが、情報が多いことは決して悪ではありません。
情報が多ければ、それだけ選択肢の幅が増え、決断の質が上がります。
パソコンや携帯電話が今ほど普及していなかった時代は、情報を集めるのに苦労しました。
ランニングシューズを買うにしても、その最安値を調べるためには、近所のスポーツ用品店を一軒一軒走り回らなければいけませんでした。
それが今では、携帯電話を少し操作するだけで、国内の最安値を知ることができます。
便利な時代です。
その代りに、ニセ情報も多くなりました。
それが真の問題です。
データそのものがニセモノの場合もあれば、データは真実でもそこから導き出される結論がニセモノの場合もあります。
つまり、今は情報を集める時代から、情報を正しく読み取らなければならない時代に変化しつつあるのです。
データを見誤れば、その結論も見誤ります。
データの信ぴょう性を吟味し、結論を正しく導く能力を身に付けなければいけません。
「虚」と「実」を見分ける能力が求められているのです。
と、言うのは簡単ですが、その能力はなかなか身に付けられません。
人は自分にとって都合の良いデータを求め、都合の悪いデータを無視する傾向があるからです。
誰もが「血液型診断」で一度は体験したことでしょう。
A型と言えば「几帳面」、O型と言えば「大雑把」と感じてしまうのがその最たる例です。
しかも、タチが悪いことに、そこに悪気はありません。
偏見を抱くつもりがないのに、知らぬ間に色眼鏡がかかってしまっているのです。
話を元に戻します。
先ほどの「運動」と「健康」の話で言えば、「運動することは、きっと健康に良いはず!」と、色眼鏡をかけてアンケート結果を見てしまったのではないでしょうか?
そのため、「運動している人に健康な人が多い」というデータを見ると、「やっぱり運動は健康に良いんだ!」と解釈してしまうのです。
しかし、見方を変えれば、「運動しているから健康なのではなく、健康だから運動ができた」とも解釈できます。
原因と結果がひっくり返っている可能性があるということです。
成功しているからお金があるのか、お金があるから成功しているのか?
友達が多いから魅力的なのか、魅力的だから友達が多いのか?
どちらが原因で、どちらが結果なのか?それ次第で、次に取るべき行動は変わります。
まずは、小さな成功体験を積むことが大切なのか?
それとも、お金を集めることが大切なのか?
まずは、魅力的な人間になることが大切なのか?
それとも、友達を増やすことが大切なのか?
因果関係を追究するときには、どうしても主観が混じり易くなります。
それを裏付ける見かけ上のデータがあれば、なおさらです。
原因と結果を正しく見極めるためには、次の踏むべき3つのステップがあります。
ステップ1:間違った因果関係に気付く ~3つの落とし穴に気を付ける~
ステップ2:主観を捨ててデータを見る ~客観的にデータを読み解く~
順番に見ていきましょう。
ステップ1:間違った因果関係に気付く ~3つの落とし穴に気を付ける~
原因と結果を見誤ってしまうのは、“3つの落とし穴” を知らないからです。
何も知らずに歩けば、高確率で落とし穴にハマってしまいます。
1-1)因果の逆転
これは先ほど示した「運動」と「健康」のパターンです。
運動しているから健康なのか?
それとも健康だから運動ができるのか?
この逆転現象は、鶏が先なのか?それとも卵が先なのか?のように原因と結果が相互関係にあり、循環しうる場合に発生します。
原因と結果は逆転しやすい。それを常に意識する必要があります。
1-2)交絡因子の見落とし
交絡因子(こうらくいんし)とは調査対象としている要素(因子)以外の要素(因子)のことを言います。
運動習慣がある人の方が長生きする。
だから運動には長生きの秘訣が隠されている。
と思っていたが……
運動する人は運動しない人より、タバコの喫煙率が低かった。
実はタバコの喫煙の有無が長生きの秘訣だったのです。
といった具合です。
本当の原因は他にあるかも?と常に思考視野を広くする必要があります。
1-3)原因が多因子
これは複数の因子が重なって、ある現象が起きているにも関わらず、特定の因子一つを原因と決めつけてしまうパターンです。
無理なダイエットを行い、免疫力が低下しているときに、
風邪を引いた人と長時間行動を共にして、
帰ってから手洗いうがいもせずに、
コタツで寝てしまったから、風邪を引いた。
にも関わらず、「最近、運動していないから風邪を引いた」と、決めつけてしまうパターンです。
これでは、どれだけ原因対策(運動する)に力を入れても意味はありません。
同じ過ち(風邪を引く)を何度も繰り返してしまいます。
犯人は常に単独犯とは限りません。
他にも原因があるのでは?と疑うクセを身に付ける必要があります。
つまり、因果の逆転を考え、思考視野を広くし、思い込みを排除することが大切です。
これら “3つの落とし穴” の存在を知るだけで、思慮の浅い結論に「待った!」がかけられるようになります。
それが原因と結果を正しく見極める最初の一歩です。
ステップ2:主観を捨ててデータを見る ~客観的にデータを読み解く~
因果関係と向き合う上での注意すべき “3つの落とし穴” については学びました。
しかし、これだけでは因果関係を正しく見抜くことはできません。
上記の “落とし穴” を回避したとしても、次に “抽象と偏見のワナ” が待ち構えているからです。
2-1)抽象のワナ
人は反論を恐れるあまりに、非の打ちどころがない抽象的な正論に逃げたがります。
「関係者全員に責任がある」
「もっと頑張る必要がある」
「健康と運動は共に大切」
といった具合です。
しかし、これらの抽象的な正論が問題解決に役立つことはありません。
何をどうしたら良いのかが不明確だからです。
抽象的な結論から導き出される解決策は、抽象的なままです。
それらしい原因を見つけたとしても、それが問題解決に繋がらなければ無意味です。
因果関係を見極めるのは、次のアクションに繋げるためなのですから!
だからといって、無理に具体的な解決策を導き出そうとすれば、次は “偏見のワナ” に引っかかってしまいます。
2-2)偏見のワナ
人は何かしらの決断を迫られたとき、過去の経験を重要視して思考が偏ってしまうことがあります。
「昔はこの方法で上手くいった」
「そんな解決案は聞いたことがないから、きっと上手くいかない」
「テレビで観るプロ野球選手は皆元気だから、野球をやれば風邪は引かない」
といった具合です。
データと正しく向き合うためには、偏見を捨てる必要があります。
しかし、それがなかなか上手くできません。
偏見を捨てるのは、今までの経験を全否定するのと同じだからです。
・アメリカ人は英語を話す
・美人はモテる
・アスリートは体力がある
これらの一般的知見を全て捨て去り、真っ白な状態に戻ることが偏見を捨てるということです。
しかし、それでは結論を導き出すのに膨大な時間がかかります。
「運動」の定義とは?から議論していては、真相にたどり着く前に飽きてしまいます。
それゆえに、当たり障りのない無難な正論に落ち着き、議論から逃げてしまいます。
つまり、
抽象的な正論を避けようとすれば、偏見にまみれた結論にたどり着き、
偏見を捨てようとすれば、問題解決に役立たない抽象的な正論にたどり着いてしまうのです。
あちらを立てればこちらが立たず状態になり、結果的に堂々巡りを繰り返してしまうのです。
これらの “抽象と偏見のワナ” を回避する手っ取り早い方法は、“他人になりきる” ことです。
それも反対意見を持つ他人です。
自分の中でアンチの自分を生み出し、議論し合うのです。
そうすることで、抽象的な正論がいかに議論不足であるか、偏見にまみれた結論がいかに柔軟性に欠けているかに気付けるはずです。
アンチの自分でも納得せざるを得ない因果関係の探求、それが客観的にデータを読み解くコツです。
この結論は問題解決に役立たないかも……
この結論はある一つの考えにこだわっているかも……
と感じたら、アンチの自分と議論して “抽象と偏見のワナ” を疑ってみましょう。
ステップ3:時間軸で考える ~思考の次元を上げる~
いよいよ最終ステージです。
最後は思考レベルを一気に飛躍させるステージです。
今までのステップをジグソーパズルに例えるならば、次はルービックキューブへの挑戦です。
ジグソーパズルはどんなに視野が狭くなってもコツコツと頑張れば、着実に完成へと近づきます。
しかし、ルービックキューブは一面をどれだけ頑張って揃えても、六面全てが揃うワケではありません。
努力だけではカバーしきれないテクニックが必要となります。
難解な問題ほど様々な要因が複雑に絡み合い、簡単には紐解けない相互関係を形成しています。
そのため、難しい問題ほど、平面的に考えるのではなく、時間軸を交えた “変化” で、「原因と結果」を立体的に考える必要があります。
例えば、病院で入院している人に次の2つの質問をしたとします。
あなたは普段運動していますか?
あなたは健康ですか?
もちろん、性別、年齢、職業、学歴に偏りが生じないようにアンケートを実施します。
それでも、ほとんどの人が「いいえ」と「いいえ」を選ぶことでしょう。
なぜならば、今は健康でないから入院しているのであり、それゆえに運動を制限されているからです。
「運動すれば健康になる」と主張したければ、この調査方法では不十分です。
時間軸を交えて、
「普段運動していない病人が運動したら、健康になるのか?」
「普段運動している人が運動しなくなったら、風邪を引きやすくなるのか?」
を調査すべきです。
ウソでも真実でもない話に騙さてはいけません。
データは真実を示していても、調査の仕方次第ではそこから得られる結論が全くの的外れとなる場合があるのです。
時間軸を止めたジグソーパズル思考では、問題の部分解決しかできません。
見えている一面でしか、つじつまが合っていないからです。
視点を変えれば、他の面は全く揃っていないのです。
損する人は「静(点)」の中から理由を見つけ出そうとします。
一方、損しない人は「動(変化)」の中から関係性を導き出します。
時間軸を点で考えるか?線で考えるか?
たったそれだけの違いですが、思考の質は大きく異なります。
問題を一つひとつ精査し、コツコツと頑張れば、問題が解決するほど現実は単純ではありません。
大切なのは “変化” で考えることです。
ルービックキューブと同じで、因果関係の追究には立体的に問題を考えるテクニックが必要不可欠なのです。
年収700万円以上の人は以下の人より、運動している人の割合が多い。
年収1000万以上の人は、読書習慣が身に付いている人が多い。
だから、お金を稼ぐためには、運動習慣を身に付け、読書する必要性があります。
この話のどこに問題があるのか?それをあなたは理解したはずです。
今回の話をまとめると、次の通りです。
1)3つの落とし穴(因果の逆転、交絡因子、多因子)に気を付ける。
2)反対意見の他人になりきり、抽象と偏見のワナを回避する。
3)因果関係を変化で考える。
今回紹介したテクニックは単純ではありますが、多くの人が活用できていない有効的なテクニックです。
これらを意識することで、安直な話に騙されずに済みます。
是非とも、実践で活用してみて下さい。
そうすれば、このテクニックの実用性が、“変化” で理解できるはずです。