あなたは騙されやすいタイプですか?
それとも騙されにくいタイプですか?
想像してみて下さい。
ある日の仕事終わり、あなたの携帯電話に見知らぬ番号から着信が入っていました。
不審に思ったものの留守録が入っていたので、早速メッセージを聞いてみると、明るく透明感のある男性の声が響きわたります。
「突然のお電話失礼します。私は投資コンサルタントをしております嶋堺(しまさかい)と申します。
この度は有益な情報を手に入れましたので、弊社の保険を利用している皆様にご連絡させて頂いている次第です。決して、何かの販売を促したり、情報料を請求したりといった類いの電話ではありませんので、ご安心ください。
突然ですが、あなた様は投資信託にご興味はありませんか?今回は、その投資信託に関するホットな情報を無料でご提供したいと思います。
今から一ヶ月間、損得探偵(株)というベンチャー企業の株価を見守ってみて下さい。最初は浮き沈みするものの、一カ月後には必ず上昇しますから。
最後までお付き合いして頂き、ありがとうございました。今後ともよろしくお願い致します。それでは失礼します」
なんとも胡散臭い話ではありますが、投資信託に少し興味があったこともあり、疑心暗鬼でその自称投資コンサルタントが勧める損得探偵の株価を見守ることにしました。
すると、みるみるうちに株価は上昇し、一ヶ月後には倍の値になったではありませんか。
こんなことなら、あのコンサルタントの言う通り、損得探偵の株を買っておけばよかった……
そんな後悔を抱いていたある日、またもや嶋堺からメッセージが入っていました。
「どうですか?私の言った通りだったでしょ。次はこの損得商事の株価を見守って下さい。
次は絶対に下がりますから」
興味が湧いてきたので、その株について少し調べてみることにしました。
するとどうやら、この銘柄は現在、プロでも予測するのが難しい局面にあるそうです。
どのサイトを見ても、「様子見がベスト!」としか書いていません。
少し不安になったので、また一ヶ月見守ることにしました。
すると、3週間経ったある日、損得商事の不祥事が明らかとなり、株価がみるみる下がっていくではありませんか。
またもや、嶋堺の予想は見事的中したワケです。
(もうこれは本物だ。彼は投資のプロに違いない。何かしらの特別な情報を持っているんだ)
そう思い、嶋堺に連絡を取ろうとしたまさにその時、
テレビ速報で「大物イカサマ師『嶋堺』、ついに逮捕」のテロップが流れました。
驚き、恐怖、安堵といった様々な感情が入り乱れます。
もう少しで嶋堺の懐に自ら飛び込むところでした……
一体、嶋堺はどのようなトリックを使って株価の推移を予測したのでしょうか?
インサイダー取引でもしたのでしょうか?
あなたは嶋堺のトリックを見破れましたか?
実は、嶋堺は何一つ特殊な手法は使っていません。
インサイダー取引も行っていません。
誰にでもできる簡単な方法で、完全に未来を予測したのです。
ですから、この嶋堺のトリックが見破れなかった人は、いつ騙されてもおかしくない状況に今まであったということです。
このトリックは「どこかにタネや仕掛けがあるのでは?」と、勘ぐれば勘ぐるほどにそのタネに気付けなくなっています。
疑えば疑うほど、ワナにかかりやすいトリックなのです。
探してもタネが見つからないから、「この件に関してはトリックは存在しない。だから、この人は本物だ」と信じてしまうワケです。
だから、用心深い人ほど簡単に騙されてしまうのです。
このトリックのタネ明かしをすると、これは偶然を必然に変えたトリックです。
先ず、嶋堺は裏ルートから100人の名簿を手に入れ、上から順に電話をかけました。
最初の50人には、「損得探偵社の株価が今から一ヶ月で上がりますから見ておいてください」と連絡し、残りの50人には「下がりますから」と連絡します。
そして、一週間後に損得探偵社の株価を確認し、予想が当たった50人にまた連絡を入れます。
外した方には連絡はしません。
次は25人に「損得商事の株が上がります」、残りの25人に「下がります」と連絡を入れます。
そして、二連続で予想が的中した25人をターゲットに本格的なウソの投資話を持ちかけるのです。
つまり、嶋堺の予想が二度連続で当ったのは、ただ偶然が重なっただけです。
ですから、個々の事例において、「なぜ未来が予測できたのか?」を考えても答えが見つからないのです。
この話の要点は2つです。
絶対に儲かる美味しい儲け話は存在します。
しかし、その美味しい儲け話は絶対にあなたの元には舞い込んできません。
これが全てです。
先ずはこの二つを受け入れましょう。
「絶対に儲かる投資は存在しない」と思い込んでいては、トリックが見破れない儲け話に騙されます。
「もしかしたら儲かる話が舞い込むかもしれない」と期待していたら、そこに付け込まれます。
例えば、頬が落ちそうなほど美味しいフルーツが実っている新種の木があったとします。
その木の存在を知っている人があなた一人だけであれば、そのフルーツを独り占めすることができます。
しかし、その木の存在を色んな人に喋ってしまうと、そのフルーツは一瞬にしてむしり取られ、すぐになくなってしまいます。
つまり、美味しい話を誰かに持ちかけるということは、自分が取れるはずだった利益を他人に差し出すということです。
美味しい話は拡散するにつれて、その旨味が消えていきます。
これを経済学では、“利潤ゼロの状態になる” と言います。
たいていの人は自分だけ得すれば良いと思っています。
ですから、美味しい話は存在しても、その存在が公になることは先ずありません。
それにも関わらず、他人に美味しい話を紹介し、わざわざ自分の旨味を減らす理由とは何でしょうか?
また、他の人に儲かる方法を教えるのは正直言って、かなり面倒です。
人はそう簡単には信じてくれません。
(新種のフルーツなんて、そんなのあるワケない)
ときには、罵声も浴びせられることもあります。
(ウソばっか言うんじゃないよ!)
そんな苦労をしてまで、とっておきの儲け話を赤の他人に教えるメリットとは何でしょうか?
それはちょっとした美味しい話をエサに、あなたからお金を巻き上げようとしているからに他なりません。
美味しい話には100%、ウラがあります。
「騙されないように気を付けましょう」と言うのは簡単です。
しかし、それでは何をどう気を付けるべきなのかがはっきりしません。
先ずは、美味しい話が流れてきた理由について疑う癖を身に付けましょう。
美味しい話は無二の親友もしくは、あなたに恩を売りたいと思っている人からしか流れてきません。
それ以外は詐欺師です。
騙されやすい人ほど、自分は騙されないと油断しています。
それため、儲け話の内容にしか注意を向けていません。
騙されない人ほど、自分は騙されるかもしれないと思っています。
そのため、儲け話の内容よりも、その話を拡散するに至った経緯に注意を向けています。
世の中はシステムを作った人しか、美味しい話にありつけない仕組みになっています。
見ず知らずの人から教えて貰える儲け話は、あなたをシステムの歯車として利用するためのトラップです。
「利益」と言う名のエサをチラつかせた釣り人が、必ず陰で糸を引いています。
詐欺師のトリックを見破ることが重要なのではありません。
詐欺師のワナにかからないことが重要なのです。
自分が逆の立場だったら、その儲け話を目の前の人にわざわざ教えるだろうか?
その美味すぎる話、なぜ自分の元に舞い込んだ?
と、常に疑う癖を身に付けて下さい。
それが「いかさましのしまさかい」から逃れる、唯一の対策なのです。