多くの人が何かしらの選択をするとき、消去法をよく利用します。しかし、消去法のデメリットをしっかりと理解している人はあまりいません。中には、消去法を利用しているという自覚さえなく、無意識に利用してしまっている人もいます。
確かに消去法は選択肢を絞るためには有効な手段です。しかし、有効であるだけで万能ではありません。消去法だけに頼っている人は必ず損します。それを理解するためにも、消去法について詳しく見ていきましょう。
【そもそも消去法とは何か?】
消去法とは、「選択肢の中に正しい答えが入っていることを前提とし、間違った答えを取り除けば最終的に正しい答えが残る」とする考え方です。しかし実際には、間違い探しというよりはアラ探しがメインです。消去法を用いればリスクが少ない選択肢が残るだけです。本当に求める答えが残るとは限らないのです。それが消去法の最大のデメリットです。
と、言われてもピンとこないですよね。もう少し具体的に見ていきましょう。
【消去法のデメリット】
次の例を想像してみて下さい。
あなたのもとに突発的な仕事が舞い込み、1000ピースのジグソーパズル10セットに挑戦しなければならなくなりました。もちろん、報酬は支給されます。しかし、その報酬形態は3つあります。仕事を始める前に、どの報酬形態にするかを自分で決めなければいけません。あなたは次の3つのうち、どの報酬形態を選びますか?
①制限時間20時間以内に、組み合わせることができたピース1つに対して、10円が支給される。
②制限時間15時間以内に、完成させることができたジグソーパズル1セット毎に、1万5千円が支給される。
③制限時間10時間以内に、1000ピースのジグソーパズル10セット全てを完成させた場合のみ、30万円が支給される。
①は何セット完成させたかは関係なく、その努力に対して報酬が支給されます。しかし、報酬の期待値は一番小さく、最大で10万円です。
②は報酬もリスクも制限時間も、①と③の中間に位置します。報酬は最大で15万円です。
③は仕事が全て完了すれば一番高額な30万円の報酬が支給されますが、仕事が未完の場合には一切報酬は支払われません。したがって、一番ハイリスクハイリターンな選択肢と言えます。
これらを表にまとめると次の通りです。
表1 報酬形態の比較
あなたなら、どの報酬形態を選びますか?
このような選択を迫られたとき、多くの人は①や②の報酬形態を選びます。そして、損します。①や②を選んだ人は消去法思考が身に付いてしまっている証拠です。
消去法思考で考える人の思考ルートは単純です。
先ず、自分の実力ならどの程度まで達成可能かを考えます。次に、自分の実力で達成可能な条件を探し、その中で最も妥当な選択肢を選びます。これが消去法思考で考える人の思考ルートです。
しかし、この思考法では無難な選択肢しか選ぶことができず、望むべき未来は得られません。最も重要な「本当は何を得たいのか」が抜け落ちているからです。
消去法思考が染みついてしまっている人は、人生の岐路に立ったときでさえ、この方法で選択肢を選びます。もし、あなたが①もしくは②を選んだのであれば、それは「何を得たいのか」ではなく、「現実的にどれを選ぶべきか」で考えるクセが身に付いてしまっている証です。先ずはその事実を客観的に受け止める必要があります。
では、損しない人はどう考え、どの報酬形態を選ぶのでしょうか?
ここで重要なのは、先程も説明した通り、「何を得たいのか」です。損しない人は欲しいモノを基準に、どうしたらそれが得られるかを考えます。つまり、最初から報酬が一番高い③の選択肢しか頭になく、「どの選択肢を選ぶか?」ではなく、③の報酬形態で「いかに成功させるか?」に頭を使います。
例えば、損しない人は③の報酬形態を選んだ後に、知人数十人に「今、ジグソーパズルが得意な人を10人探しているんだけど、誰かいないかな?1000ピースのジグソーパズル10セットを8時間以内に全て完成させてくれたら、1万円ずつの報酬を出そうと思っているんだけど。どうかな?誰かいない?もしくはやってみない?」と声をかけてまわります。
そうやって、10人の協力者を集め、協力者に仕事をこなしてもらいます。10人に依頼するので成功すれば人件費として10万円かかりますが、それでも自分は何の苦労もすることなく、20万円の報酬を得ることができます。もし失敗したら報酬は全く得られませんが、協力者とは成功した場合のみ報酬を支払う、という契約を結んでいるので、自分が失うものは電話代くらいです。つまり、成功すれば自分は、ジグソーパズルを1ピースも触ることなく20万円の報酬が得られ、たとえ失敗してもほとんど何も失わないのです。まさしくローリスクハイリターンな選択肢と言えるでしょう。
しかし、消去法思考の人には、この選択肢は思いつきません。
「そんな方法はズルい」「誰かに協力を依頼しても良いとは聞いていない」「一万円で協力してくれる人がいるとは限らない」といった反論をしても意味はありません。世の中の多くは、こういったシステムで回っているからです。“世の中はシステムを作った者の一人勝ち” と良く言われます。システムで考えることの重要性がよく説かれています。しかし、実際にこのシステム思考が身に付いている人はあまりいません。分かったつもりでいて、実用できていないのが現状です。
消去法は、全ての可能性が明示されている場合には有効かもしれませんが、人生において全ての可能性が明示されていることはそうありません。中でも、ラクに儲ける方法は自分で探し当てない限り、どこを探しても書いていません。
また、たとえ全ての可能性が分かっていても、全てを調べることは実質不可能な場合もあります。最高のパートナーに巡り合いたいと願っても、世界中の全ての異性と付き合うことはできません。時間という縛りがある以上、最高の選択肢を見つけるためには、直感的思考に頼る必要があります。
直感的思考とは、論理的思考を超越した、感情に重きを置いた思考のことです。俗にいう、「ビビビっときた」「なんとなくこれしかないと感じた」といった感覚を重要視した考え方です。直感的思考では、論理的思考を飛ばしてしまうため、慣れないうちは見当違いの選択肢を選んでしまうときもあります。しかし、その精度を高め、直感的思考を自分のモノとしたときには、今までにない思考スピードや、新しい可能性、本質を見極める力を手に入れることができます。
目の前に広がる分かれ道を一本選べばよい消去法思考と、存在しない道も視野にいれなければいけない直感的思考とでは、思考の深さに差が生まれるのは必然です。当然、「消去法思考は避けよう」と強く意識しないことには、よりラクな消去法思考に頼ってしまうことになります。そのため、「自分が本当に欲しているモノは何か?」と常に自問自答し、未来を見つめる習慣を身に付ける必要があります。
消去法は、自分が本当にしたいことは何か?を考えても答えが出ず、どうにもならないときに、仕方なく使うだけに留めておきましょう。そして、その後は消去法思考に頼ってしまったことを反省しなければいけません。「それしか選択肢がなかった」と言うのは安い言い訳に過ぎず、直感的思考が停止してしまっている証拠なのですから。
「手持ちのカードの中でいかに最良を選ぶか?」に必死になるあまり、他の可能性に目を向けられないのが、消去法思考の宿命です。
先ずは「自分が本当にしたいことは何か?」と考えるクセを身に付けることから始めましょう。